みつばち薬局待鳳店薬局長・管理薬剤師 津田 羊子
あれは10年以上も前のことです。
そのときの在宅薬剤訪問は、予定した訪問でなく、患家の近くまで行ったついでに、ふらりとあいさつに立ち寄った時のことです。
“Aさんこんにちは”“・・・・”いつもなら返事のあるAさん。今回は返答がありません。“昼寝中かな”と思いながらも“おじゃましますよ”と声をかけながら居室に向かいました。
すると、患者さんはおびただしい吐瀉物の海と化したベッドの中でした。
「大変だ」、脈拍を測定すると頻脈で不整も触知します。(HRは120−140と記憶しています)
実はアルコール好きのAさんはアルコール依存症。Aさんの同意のもと、嫌酒療法を実施していました。最初の頃は禁酒を遵守されてていたAさん。ところが、もともとアルコールが大好きな方ですので、禁酒は続きませんでした。それどころか嫌酒剤服用後4〜5時間経過すると少量の酒を飲んでも副作用発現無しと体得してしまっていたのです。(本来はあり得ないと思うのですが)
立ち寄ったその日は飲酒量が増してしまい、(アルデヒド血中濃度の高値にて)嘔吐、頻脈、動悸など、Aさんにとってはたいへん苦しい状態に達していたのです。すぐさま担当医と看護師に連絡。
到着まで5分足らず。吐瀉物による窒息防止のため側臥位をとり、ベッド周囲の不快な環境を掃除し、プルスの変化を見守りました。医師、看護師到着後すぐに救急搬送されました。この日はHH(ホームヘルパー)が朝にサービス訪問され、その後は他のサービスはまったく計画されていなかったため偶然にもわたしが立ち寄ったことで対処できたケースです。
元気になられたAさんはわたしのことを“命の恩人だ”なんて言ってくれるのですが、アルコールは依然と続けています。一人暮らしの在宅管理患者さんにおけるアルコール依存症治療の困難さを実感した事例でもあります。
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