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学術研修

2021年8月20日

放射線の感受性・加重係数と国試解説(100回問22/102回問136)

本部のTです。放射線に関連する薬剤師国家試験の問題を2つ取り上げて、解説してみました。

薬学生さん向けの記事ではありますが、最後の「放射線による被ばく(被曝、被爆)」の項目では、核兵器や原発事故の問題と絡めて書いていますので、薬学生以外の方も、是非ご一読ください。

 

第100回 問 22 (必須問題)

放射線に対する感受性が最も高い器官又は組織はどれか。 1つ選べ。
 1 脂肪組織  2 皮膚  3 リンパ組織  4 肺  5 神経組織

 

解説

放射線感受性(放射線による組織の損傷の受けやすさ)は、未分化で細胞分裂の頻度が高い組織ほど高くなります。
下記の表1に放射線感受性について記載しました。

よって答えは「3 リンパ組織」です。

 

第102回 問 136 (理論問題)

放射線の線量に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。

  1. 実効線量とは、物理的な測定値ではなく、放射線による発がんと遺伝的影響を評価するために用いられる線量である。
  2. 実効線量を求めるのに用いられる組織荷重係数は、肝臓が最も大きい。
  3. 等価線量を求めるのに用いられる放射線荷重係数は、α線の方が γ線より大きい。
  4. 等価線量を表す単位としてグレイ(Gy)、実効線量を表す単位としてシーベルト(Sv)が用いられる。

 

解説

1:◯
2:組織加重係数が最も大きいのは、「骨髄、結腸、肺、胃、乳房」で、×です。
3:◯
4:等価線量、実効線量ともにシーベルト(Sv)が用いられるので、×です。

よって、答えは1と3です。
以下に詳細な解説をしていきます。

放射線量の単位について下記の表2にまとめました。

表2 放射線量の単位

  • 表中の確率的影響とは、一定量の放射線を受けたとしても、必ずしも影響が現れるわけではなく、放射線を受ける量が多くなるほど現れる確率が高まる影響のことで、発がん及び遺伝的影響がこれに当たります。
  • 一方で、一定量(しきい値)以上の放射線を受けると、影響が現れ、放射線を受ける量が多くなるほど症状が重篤になる影響を確定的影響と言い、急性障害(脱毛、造血器障害、皮膚障害、消化器障害など)や不妊、白内障などがあります。
  • なお、放射線量とは別に、放射線物質の放射能の強さ(放射性物質が1秒間に崩壊する原子の個数)を表す単位としてベクレル(Bq)があります。

 

下記の表3に放射線加重係数を記載しました。

  • 放射線加重係数は放射線の種類別に生体への影響を数値化したものです。数値が高いほど、生体への影響が高いことを意味します。また、今回取り上げた問題には出てきませんが、透過力についても表に記載しています。例えば、α線は生体への影響は大きいものの、透過力は弱いことが表を見ればわかります。
  • 国試対策としては、数字は覚えなくても良いですが、放射線加重係数は「X線・γ線・β線 < 陽子・中性子 < α線」の順であることと、遮蔽物については覚えておきましょう。

 

表3 放射線加重係数と透過力

  • 主な組織加重係数を以下の表4に記載しています。組織加重係数は「被ばく集団におけるがん誘発に関する疫学調査と遺伝性影響に対するリスク評価」に基づき、個々の組織への放射線の影響の大きさを数値化しています。
  • こちらも数字は覚える必要はありませんが、大まかに係数の高いものと低いものは覚えておきましょう。前述の放射線感受性と同様に、骨髄の加重係数が高く、また結腸、肺、胃、乳房も発がん性のリスクから加重係数が高く設定されています。

 

表4 主な組織加重係数

放射線による被ばく(被曝、被爆)

以下は国試問題とはあまり関係ありませんが、関連する知識として補足的に書きました。

  • 核兵器や原子力発電に使用される放射性物質(ウラン238、プルトニウム239等)は主にα線とγ線を放出します。また、それらが核分裂を起こすと、中性子を放出するとともに、セシウム137等の別の放射性物質が生じますが、これらの放射性物質はβ線とγ線を放出するものが多いです。
  • そのため、核兵器の爆発や原子力発電の臨界事故時には中性子線、α線、β線、γ線のいずれについても、外部被ばくの危険性があります。
  • 外部被ばく時には、透過力の高いγ線、中性子線の影響が特に問題になります。どちらも線量が多ければ、造血器障害など重大な障害を引き起こします。特に中性子線は生体に含まれる水素と反応することで、生体により大きな影響を及ぼします。
  • また、β線の透過力は比較的低いものの、皮膚を数mm程度は透過するため、線量が高い場合には火傷を引き起こす可能性があります。
  • 内部被ばく時には、α線、β線、γ線の生体への影響が問題となります。特にα線は、皮膚を透過できないため、外部被ばく時の影響は少ないですが、放射性物質を含む粉塵を吸い込んだ時や経口摂取したときにその高い発がん性が問題となります。
  • 放射性物質の種類により、蓄積する部位や半減期が異なるため、内部被ばくの人体への影響についてはそれらも考慮しなければなりません。

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