心不全・血液循環のまとめと国試解説(104回問60等)
本部のTです。
今回も薬学生の皆さんに向けて、薬剤師国家試験の問題を3つ取り上げて、解説してみました。
今回取り上げた問題は、肺動脈 (103回問11)、心不全(104回問60)、肺血栓塞栓症(102回問217)に関するもので、いずれも血液循環について理解していることが重要となる問題です。
まず、基礎的な問題である103回問11から。
第103回 問11 必須問題
図は、ヒトの心臓の断面と心臓に出入りする血管を示す。1〜5のうち、肺動脈はどれか。1つ選べ。なお、矢印は血液の流れを示す。
解説
答えは4です。
ここで、血液循環の流れについて、おさらいしましょう。以下に血管の名称、心房、心室と血液の流れを示しました。
- 全身から戻ってきた酸素濃度の低い血液(静脈血)は、大静脈を通って、右心房に流れ込みます。この時、上半身の静脈血は上大静脈から、下半身の静脈血は下大静脈から流れ込みます。
また、肝臓を通過した血液も肝静脈を経て、下大静脈から、右心房に流れ込みます。 - 右心室から肺動脈を通って肺に送られ、ここでガス交換を行い、酸素を多く含んだ血液(動脈血)となります。
- 肺から肺静脈を通って左心房に動脈血が流れ込みます。
- 左心室から大動脈を通って、全身に再び送り込まれ、全身に酸素を供給します。
※心臓から送り出される血液が流れる血管が動脈、心臓に戻ってくる血液が流れる血管が静脈なので、「動脈血」「静脈血」と混同しないように気をつけましょう。
上記の血液循環の流れを模式図で簡潔に表すと、以下のようになります。
この流れをしっかりと頭に入れて、次の問題へ行きましょう。
104回 問60 必須問題
右心不全を伴わない左心不全の主な症状に該当しないのはどれか。1つ選べ。
- 急性肺水腫
- 下肢浮腫
- 呼吸困難
- 血圧低下
- 尿量減少
解説
心不全は、心臓のポンプ機能が低下し、全身が必要とするだけの血液循環量を保てない病態です。心不全の原因としては、高血圧や不整脈、心筋梗塞、心臓弁膜症、心筋炎などがあります。
右心不全と左心不全の主な症状を以下の表にまとめました。
心不全の主な症状
右心不全と左心不全に共通する症状
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右心不全の症状
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左心不全の症状
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本問では「右心不全を伴わない左心不全の主な症状に該当しないもの」を選ぶので、右心不全の主な症状である2.下肢浮腫が答えです。
心不全の主な症状は覚えておきましょう。ただし、丸暗記ではなく、なぜこのような症状が起こるのかを理解するのが大事です。以下に症状の機序を記載しました。
心臓のポンプ機能低下による症状
(右心不全・左心不全共通)
血液循環が滞るということは、全身に必要な量の酸素が供給されなくなるということです。それにより「全身倦怠感、四肢冷感、チアノーゼ(皮膚・粘膜の青紫色変化)」といった症状が起こります。
腎臓に流れ込む血液も減少するわけですから、腎機能が低下し、尿量も減少します。
心臓のポンプ機能が低下しているので、血圧は低下し、それを補おうと交感神経が活性化し、動悸が起こることもあります。
右心不全の症状
右心不全では、右心のポンプ機能が低下し、右心室から肺へ送り出される血液量が低下します。
一方で、送り出す血液量が低下すれば、右心に流れ込む血液量も低下し、静脈の血液のうっ滞が起こることになります。それにより浮腫、体重増加、静脈圧上昇、内頸静脈怒張が起こります。
内頸静脈は首の側部にある静脈で、静脈圧が大きく上がると、それが怒張(拡張し、浮き上がったような状態)します。また、肝臓から流れ込む血液もうっ滞するので、肝臓肥大が起こります。
浮腫では、特に下肢浮腫が起こりやすいです。重力によって血液が下半身にうっ滞しやすいからです。一方、就寝時は体を横にするので、下半身に滞留していた血液が腎臓に流れやすくなり、夜間頻尿を起こす場合もあります。
左心不全の症状
左心不全では左心のポンプ機能が低下し、肺静脈の圧が上がります。肺静脈の圧が大きく上がると、肺の組織に水分や血液が染み出してきてきます(肺水腫)。それにより「呼吸困難、息切れ、夜間咳嗽、起坐呼吸、ピンク色の泡沫痰(血液と空気の混じった痰)」が出るといった症状が起こります。
起座呼吸というのは、体を横にすると息が苦しくなる状態です。これは、体を横にすると、重力により下半身へ送り出される血液量が低下し、より肺うっ血が強くなるために起こります。
軽度の心不全では、労作時に息切れや動悸が起こりますが、悪化すると安静時でも起こるようになります。
第102回 問217 実践問題
肺血栓塞栓症において、下肢静脈で生じた血栓が肺へ到達する経路として、正しいのはどれか。1つ選べ。
- 大腿静脈→総腸骨静脈→下大静脈→右心房→右心室→肺静脈→肺
- 大腿静脈→総腸骨静脈→下大静脈→右心房→右心室→肺動脈→肺
- 総腸骨静脈→大腿静脈→門脈→下大静脈→右心房→右心室→肺動脈→肺
- 総腸骨静脈→大腿静脈→下大静脈→左心房→左心室→肺静脈→肺
- 大腿静脈→総腸骨静脈→下大静脈→左心房→左心室→肺動脈→肺
解説
肺血栓塞栓症とは、肺動脈に血栓が詰まって、呼吸困難や胸痛、場合によっては心停止をきたす疾患、いわゆるエコノミークラス症候群です。主に、下肢静脈に血栓ができ、それが肺へ到達することで起こります。
この問題も、前述の血液循環がわかっていれば、解くことができます。
まず、下大静脈を通った血液が流れ込むのは右心房なので、選択肢4と5は消去できます。また、心臓から送り出される血液が通るのは動脈なので、「右心室→肺静脈」の記載がある選択肢1も消えます。
さらに、消化管・脾臓の血液が集まって肝臓へと注ぎ込む部分の血管が門脈であることを知っていれば、選択肢3の「大腿静脈→門脈」も消去することができます。
よって答えは2です。
また、総腸骨静脈は腹部にある静脈であり、問題文に「下肢静脈で生じた血栓」と書かれているにもかかわらず、総腸骨静脈から経路が開始している点からも選択肢3、4は誤っています。『総腸骨静脈』のようにあまり聞き馴染みのない言葉が出てきても、焦らずに持っている知識を使って答えを導き出しましょう。
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