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学術研修

2024年12月3日

国試解説 抗MRSA薬関連

本部のTです。
前回、抗MRSA薬についてまとめましたので、今回は関連する国試問題について解説していきたいと思います。一部の選択肢を除き、いずれも「抗MRSA薬の特徴と覚え方」の記事を見れば解ける問題です。

 目次

 

第97回問270(実務)

入院中の糖尿病患者の喀痰よりメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されたため、バンコマイシン塩酸塩注射液を投与することとなった。
この治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. 副作用として視力障害が現れることがあるので、観察を十分に行うとともに、患者に対して目がかすむ等を感じた場合はすぐに連絡するように説明した。
  2. 急性腎不全等の重篤な腎障害が現れることがあるので、投与中は腎機能検査値に注意することを医師に提案した。
  3. ヒスタミン遊離によるレッドネック症候群を引き起こすことがあるため、60分以上かけて点滴静注するように医師に情報提供した。
  4. 時間依存型の殺菌効果を示すため、有効血中濃度を長時間維持することが必要である。

 

解説

選択肢1 ×
バンコマイシンは力障害の副作用が現れることがありますが、力障害の副作用は報告されていません。
同じグリコペプチド系のテイコプラニン、アミノグリコシド系のアルベカシンも聴力障害に注意が必要です。またこれらの薬は、腎障害もあり、TDMが必要な点も共通です。
逆に視力障害の副作用を持つ抗菌薬は、結核治療薬のエタンブトールなどがあります。

選択肢2 ○
上述の通り、バンコマイシンは腎機能障害に注意が必要です。

選択肢3 ○
バンコマイシンおよびテイコプラニンは、ヒスタミン遊離によりレッドネック症候群が起こします。急速静注すると、レッドネック症候群やショック症状が起こる可能性が高いため、バンコマイシンは60分以上、テイコプラニンは30分以上かけて点滴静注しなければなりません。

選択肢4 ×
バンコマイシンは濃度依存性の抗菌薬なので、AUC/MICに薬効が相関します。

よって正解は2,3です。

 

第98回問262-263

80歳男性。喀痰よりMRSAが検出され、以下の薬剤が処方された。

問262 (実務)
この患者の薬物療法において、薬剤師が考慮すべき検査項目はどれか。2つ選べ。

  1. 最小発育阻止濃度(MIC)
  2. QT間隔
  3. フィブリノーゲン
  4. 尿中ミクログロブリン
  5. 血中テストステロン

 

解説

正解は1,4です。
最小発育阻止濃度(MIC)は抗菌薬の効果の指標となります。
また、尿中ミクログロビンは腎機能の指標となる検査値です。アルベカシンは副作用として腎機能障害があるため、腎機能の指標(血清クレアチニン濃度、クレアチニンクリアランス、尿中ミクログロビンなど)は重要です。
選択肢2のQT間隔は不整脈に関連する項目です。選択肢3のフィブリノーゲンは血液凝固因子であり、血液の固まりやすさの指標となります。選択肢5のテストステロンは男性ホルモンの一種です。これらと関連する副作用はアルベカシンで報告されていないため、検査は不要です。

 

問263 (薬理)
MRSAに対するアルベカシンの抗菌作用機序として、正しいのはどれか。1つ選べ。

  1. 細菌のDNA依存性RNAポリメラーゼを阻害し、転写を抑制する。
  2. 細菌のエルゴステロール生合成を阻害し、細胞膜の透過性を高める。
  3. 細胞壁前駆体である直鎖状ペプチドグリカン末端のD-アラニル-D-アラニンと結合し、細胞壁の合成を阻害する。
  4. 細菌のリボソーム30Sサブユニットに結合し、タンパク質の合成を阻害する。
  5. 細菌の微小管に結合し、有糸分裂を阻害する。

 

解説

選択肢1 ×
抗結核薬であるリファンピシンの作用機序です。

選択肢2 ×
アゾール系抗真菌薬やテルビナフィンの作用機序です。

選択肢3 ×
バンコマイシン・テイコプラニン(グリコペプチド系抗菌薬)の作用機序です。

選択肢4 ○
アミノグリコシド系抗菌薬やテトラサイクリン系抗菌薬の作用機序です。アルベカシンはアミノグリコシド系の1種であるため、正しいです。

選択肢5 ×
抗悪性腫瘍薬の中の微小管阻害薬(ビンクリスチンやパクリタキセルなど)の作用機序です。

よって正解は4です。

 

第103回問232(実践問題)

75歳女性。肺炎にて入院後、喀痰検査にてMRSAが原因菌と判断された。バンコマイシンにて治療を開始したが改善が認められず、アルベカシンに変更した。変更後も治療効果が認められず、さらに腎機能も低下していたことから、他の薬物の選択をICT(感染制御チーム)で検討することになった。

薬剤師が提案する薬物として、最も適切なのはどれか。1つ選べ。

  1. タゾバクタム・ピペラシン
  2. シプロフロキサシン
  3. メロペネム
  4. クリンダマイシン
  5. リネゾリド

 

解説

正解は5.リネゾリドです。(ゴロの「テイバンだとムリあるべ」の「リ」です。)

他の選択肢はMRSAに有効ではありません。

 

105回問 264−265 

73歳男性。胃全摘出術後4日目に発熱があり、CRPも上昇していた。胸部単純レントゲン写真で右下肺野に浸潤影を認め、喀痰培養の結果にてMRSAが検出されたため、バンコマイシンの投与を開始した。
7日間投与したが効果が得られなかったため、病棟担当薬剤師に薬剤の変更について医師から相談があり、作用機序の異なるリネゾリドの静脈内投与を提案した。

検査値:体温 38.1℃、CRP 5.8mg/L、Ccr 44.5mL/min、赤血球数 420×104/μL、白血球数 4,000/μL、血小板数 25×104/μL

問264
リネゾリドの作用機序はどれか。1つ選べ。

  1. 細菌内で還元されたニトロ化物が細菌のDNAを切断する。
  2. 細菌の細胞壁合成の初期段階でN-アセチルムラミン酸の合成を阻害する。
  3. 細菌のDNAジャイレースに作用し、DNAの高次構造形成を阻害する。
  4. 細菌のペニシリン結合タンパク質に共有結合する。
  5. 細菌のリボソームと結合し、翻訳過程の70S開始複合体の形成を阻害する。

 

解説

選択肢1 ×
これは、メトロニダゾールなどの作用機序です。

選択肢2 ×
ホスホマイシンの作用機序です。

選択肢3 ×
ニューキノロン系抗菌薬の作用機序です。

選択肢4 ×
β-ラクタム系抗菌薬の作用機序です。

選択肢5 ○
リネゾリドの作用機序です。

よって、正解は5です。

 

問265
リネゾリドをこの患者に使用する上での留意点として適切なのはどれか。2つ選べ。

  1. 投与終了1~2時間後の血中濃度を測定する必要がある。
  2. 効果不十分な場合は、点滴静注時間を15分に短くすることで効果を高めることができる。
  3. 中等度腎障害のため、減量して投与する。
  4. 骨髄抑制を起こすことがあるので、定期的に血液検査を行う。
  5. 経口投与が可能な状態になったら、経口剤への切り替えを提案する。

 

解説

選択肢1 ×
リネゾリドは、TDMが不要とされる薬です。
投与終了1~2時間後の血中濃度を測定する必要があるのはバンコマイシンです。

選択肢2 ×
点滴静注の速度を変えることで効果を調整することはありません。

選択肢3 ×
リネゾリドは主に肝代謝され、腎機能に応じた減量は通常必要ありません。

選択肢4 ○
その通りの記述です。

選択肢5 ○
リネゾリドは経口剤と注射剤の生物学的利用率が約100%であるため、経口投与が可能な場合には切り替えることで患者の負担を軽減できます。

よって、正解は4,5です。

 

第107回問273-274(実践問題)

65歳男性。身長160cm、体重58kg。開胸心血管バイパス術施行後4日目に38.5°Cの発熱を来し、喀痰、血液培養、尿、鼻汁を用いたグラム染色の結果、陽性であった。細菌培養の結果が得られるまで48時間程度を要することから、院内感染制御チームへのコンサルトの結果、MRSA感染症を疑い、当日夜よりバンコマイシン点滴静注用の14日間投与が決定された。
バンコマイシン投与前の検査値を以下に示す。

(検査値)
白血球数13,000/μL、CRP7.5mg/dL、血清クレアチニン値1.2mg/dL、BUN17.6mg/dL、クレアチニンクリアランス(Ccr)50mL/min

バンコマイシンの投与量決定には母集団薬物動態解析により得られた以下のパラメータを用いた。
CL(L/hr)=0.05×Ccr(mL/min)[Ccrが85mL/min以下の場合]
CL(L/hr)=3.5[Ccrが85mL/minより大きい場合]
Vd(L)=60.7

問273(薬理) 

バンコマイシンの治療効果及び副作用に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. ペンタペプチドC末端のD-Ala-D–Alaに結合して、細胞壁合成を抑制する
  2. 細菌リボソーム30Sサブユニットに結合して、タンパク質合成を抑制する
  3. 翻訳過程の50S開始複合体の形成を阻害して、タンパク質合成を抑制する
  4. ヒスタミンの遊離を促進して、レッドネック症候群を引き起こす。
  5. 非ステロイド性抗炎症薬との併用により、痙れんを引き起こす。

 

解説

選択肢1 ○
バンコマイシン・テイコプラニン(グリコペプチド系抗菌薬)の作用機序です。

選択肢2 ×
アミノグリコシド系抗菌薬やテトラサイクリン系抗菌薬の作用機序です。

選択肢3 ×
マクロライド系抗菌薬、リンコマイシン、クリンダマイシン、クロラムフェニコールの作用機序です。

選択肢4 ○
バンコマイシンおよびテイコプラニンは、ヒスタミン遊離によりレッドネック症候群が起こします。

選択肢5 ×
NSAIDsとの併用により、痙れんを引き起こす可能性があるのは、ニューキノロン系抗菌薬です。

よって正解は1,4です。

 

問274(実務) 
バンコマイシン投与後の副作用確認のために薬剤師が行うモニタリングとして、適切なのはどれか。2つ選べ。

  1. 投与直後はアナフィラキシーショックが発現することがあるので、皮疹や呼吸困難の有無を確認する。
  2. 高血圧が発現しやすいので、朝晩の血圧を確認する。
  3. 第8脳神経障害の副作用が発現することがあるので、視力を確認する。
  4. 低アルブミン血症の発現頻度が高いので、面談時に全身のむくみを確認する。
  5. 腎障害が発現することがあるので、血清クレアチニン値や尿量を確認する。

 

解説

選択肢1 ○
抗菌薬は、アナフィラキシーショックが出現しやすいので、注意が必要です

選択肢2 ×
バンコマイシンの副作用として高血圧は報告されいていないため、誤り。ただし、ショック症状を起こした場合は、低血圧が出現することがあるため、状況に応じて血圧の確認は必要です。

選択肢3 ×
第8脳神経障害=聴覚障害であるため、視力ではなく聴力の確認が必要です。

選択肢4 ×
バンコマイシンは低アルブミン血症の発現頻度は高くありません。ただし、腎機能低下により、低アルブミン血症やむくみが起こることはあり、注意は必要です。

選択肢5 ○
正しい記述です。

よって正解は1,5です。

 

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