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事務局日誌

2022年8月31日

核軍縮とジェンダー

核抑止ではなく核廃絶が世界の本流

本部のRです。
 

 8月26日まで開かれたNPT=核拡散防止条約の再検討会議は、最終日になって「最終文書」の草案のウクライナ情勢をめぐる文言にロシアが反対したことで、合意にいたらず閉幕しました。被爆者をはじめとする核廃絶を願う人々からは失望や怒りの声が出されました。
 しかし、この会議の成果が「分裂」だけというわけではありません。
 会議期間中、「核兵器禁止条約」締約国は「核禁条約とNPTとの補完性を再確認する」と訴える共同声明を出しました。声明は「核抑止」を批判し「核兵器は、強制、脅迫、緊張激化につながる政策の道具として使用されている」、「禁止条約がかつてなく必要とされている」と主張しました。
 再検討会議の討論では、禁止条約締約国会議のウィーン宣言に触れ、NPT第6条に基づく合意の実行を核保有国に迫る発言が多くなされたとのことです。
 

 29日グテーレス国連事務総長は「核実験に反対する国際デー(8月29日)」に寄せてメッセージを発しました。

 …世界はあらゆる核実験を法的拘束力のある形で、きっぱりと禁止すべきです。…
 核兵器は私たちの世界に存在すべきではありません。核兵器が勝利や安全を保障することは決してありません。核兵器は、そもそも破壊しかもたらさないようにできているのです。
 私たちの世界は、あまりにも長きにわたって、この死の装置の人質にされてきました。「核実験に反対する国際デー」にあたり、私は人類と地球両方の健康と存続のために行動を起こすよう、世界に呼びかけます。
 核実験の終わりを確実なものとし、核兵器を完全に過去のものにしようではありませんか、今もこれから先も。

 

 核兵器を保有し、他国を脅かすことで平和を維持しようとする「抑止力論」ではなく核廃絶が世界の本流になっています。
 

 

運動の主流になるジェンダー視点

 NPT再検討会議でも、ジェンダーに焦点をあてた発言や声明、サイドイベントの開催が相次ぎました。核兵器廃絶を扱う第1委員会では、「NPT会議が男女平等の参加を促進する重要性を認識する」とした最終文書の素案について議論されたとのことです。
 議長が提案した最終文書案には「NPT履行に向けた女性と男性による参加とリーダーシップの重要性を認識」することや、次回の会議までに核軍縮におけるジェンダーの取り組みを強化することなどが盛り込まれました。

 

 

ジェンダー視点が平和構築にとって「必要」

 民医連の機関誌『民医連医療』誌2022年8月号に川田忠明氏(日本平和委員会常任理事)が「連載 職員育成の理論を深める~『職員育成指針2021年版』に寄せて (3)軍事力に頼らない安全保障への展望 一人ひとりの成長と平和実現を重ねた「育成方針」」の中で、ジェンダー視点について大変興味深い情報を書いておられるので、紹介します。

  • 「女性グループが交渉に強い影響を与えたり、和平協定を推進したりできる場合には、ほとんどの交渉が合意に達した… (そうでない場合は) 合意に達する可能性はかなり低くなった…悪影響を及ぼしたケースは一つもなかった」(1989年~2014年の40カ国の地域紛争を分析した2015年の「国際平和研究所」の研究)
  • 和平交渉に「女性が参加している場合、その合意が2年続く可能性が、不参加の場合と比べて20%高くなる。15年間続く可能性は、女性参加の方が35%高くなる」(世界の182の和平協定 (1989~2011年) を調べたノートルダム大学・クロック国際平和研究所、ローレル・ストーン氏の調査研究)
  • 女性が交渉や政策づくりに参加できれば、より安定した社会が可能になります。「女性はより早く児童福祉と教育に投資し、食糧安全保障を構築し、農村経済を再建する傾向があり、長期的な安定に大きく貢献する」(国連 「紛争の予防、正義の変革、平和の確保:国連安保理決議1325号の履行についての世界的研究」)
  • 「女性および男性の双方による、平等で十分かつ効果的な参加が、持続可能な平和と安全の促進と達成のための不可欠な要素であることを認識し、女性の核軍縮への効果的な参加を支援し強化することを約束」(「核兵器禁止条約」前文)

 

ジェンダー視点の導入も平和運動の本流になってきているようです。 

 

参考資料(敬称略):