薬剤師国家試験解説(統合失調症治療薬 107回問246-247等)
本部のTです。
今回は統合失調症の治療薬に関する国試問題である107回問246-247、105回問252-253、105回問 294-295、103回154の解説をしてみました。
問題を解くのに必要な知識は10/31の記事(統合失調症治療薬まとめ)に書いてあるので、そちらも参考にしてください。
107回問246-247
23 歳女性。半年前に幻覚と妄想が出現し統合失調症と診断され、リスペリドン 6 mgによる治療を受けていた。
精神症状は改善したが、手のふるえや筋肉が突っ張るような錐体外路症状が出現した。また、これまで規則正しかった月経が止まったとの訴えがあり、検査により高プロラクチン血症と診断された。
患者から別の薬剤への変更を希望され、以下の処方へ変更することになった。
(処方)
アリピプラゾール錠 12 mg 1 回 1 錠( 1 日 1 錠)1 日 1 回 朝食後 14 日分
問246
この患者でリスペリドン服用中に認められた副作用発生の主な機序として、正しいのはどれか。2 つ選べ。
- 線条体におけるドパミンD2受容体遮断
- 線条体におけるセロトニン5-HT2A受容体遮断
- 中脳辺縁系におけるドパミンD2受容体遮断
- 中脳辺縁系におけるセロトニン5-HT2A受容体遮断
- 脳下垂体前葉におけるドパミンD2受容体遮断
問247
変更後の処方薬に関する記述として、適切なのはどれか。2つ選べ。
- 第 1 世代 (定型) の統合失調症治療薬と比べ錐体外路症状が発現しにくい。
- 変更後 2ヶ月間は、好中球数のモニタリングが毎週必要である。
- 分布容積が大きいため、過量投与に対する処置として血液透析が有効である。
- 投与中は血糖値の定期的なモニタリングが必要である。
- 薬物治療は今後 1ヶ月で終了することが見込まれる。
解説
問246
錐体外路症状は黒質-線条体でのドパミンD2受容体の遮断によって起こります。また、高プロラクチン血症は、脳下垂体前葉のドパミンD2受容体遮断により起こります。よって、正解は1,5です。(下の表を参照)
問247
選択肢1
正しい記述です。
選択肢2
好中球数のモニタリングが必要な抗精神病薬としてクロザピンがあります(無顆粒球症の副作用が報告されているため)が、アリピプラゾールについては好中球数のモニタリングは不要です。
選択肢3
分布容積が大きい薬物は、組織移行性が高いため、血漿中の薬物濃度が低くなり、血液透析で除去されにくいです。よって、不適切です。アリピプラゾールは分布容積が大きい薬物ですが、それを知らなくても、選択肢の文章に矛盾があることに気がつければ、誤りであることがわかります。
選択肢4
アリピプラゾールを含め、第2世代(非定型)抗精神病薬は体重、血糖値の定期的な検査が必要です。よって、正しい記述です。
選択肢5
統合失調症の治療は、寛解した場合でも、最低1~2年は最低量の服用を維持しなければなりません。
105回問 252-253
23歳女性。母親に連れられて病院を受診した。母親の話では、幻覚や妄想と思われるような意味の分からないことを話すようになったとのこと。今年、大学を卒業して企業で働き始めたが、最近は欠勤気味であった。患者は統合失調症と診断され、ハロペリドールによる治療を開始した。しかし、手の震えなどの錐体外路症状の訴えが患者からあったため、医師より代替薬について相談があった。
問 252
この患者に対し、薬剤師が推奨できる薬物として適切なのはどれか。2つ選べ。
- ブロムペリドール
- スピペロン
- アリピプラゾール
- リスペリドン
- クロザピン
問 253
医師に提案したそれぞれの薬物のもつ作用の特徴として、適切なのはどれか。2つ選べ。
- セロトニン 5-HT2A 受容体遮断作用
- ヒスタミン H1 受容体遮断作用
- ドパミン D2 受容体部分刺激作用
- アセチルコリン M1 受容体遮断作用
- アドレナリンα1受容体部分刺激作用
解説
問252
選択肢の中で、錐体外路症状を起こしにくい非定型抗精神病薬は、3 アリピプラゾール(DPA)、4 リスペリドン(SDA)、5 クロザピン(MARTA)の3つです。クロザピンは無顆粒球症や血糖上昇の副作用が起きやすいため、「2種類以上の十分量の抗精神病薬を4週間以上投与しても反応がみられなかった患者」等の条件があり、この患者には当てはまらないため、不適です。よって、正解は3,4です。
問253
アリピプラゾールは、ドパミンD2受容体部分刺激作用、セロトニン5-HT2A受容体遮断作用等を持ちます。リスペリドンはドパミンD2受容体遮断作用とセロトニン5-HT2A受容体遮断作用を持ちます。よって、正解は1,3です。
105回問 294−295
26歳女性。糖尿病の既往がある。大学卒業後、就職し、仕事が増え始めた頃から奇異な言動が見られ始め、部屋に引きこもり、独り言を言う、壁を叩く、蹴るような行動が見られるようになった。心配した家族とともに精神科を受診したところ、統合失調症と診断されて入院となり、アリピプラゾールによる治療が開始された。
入院時の検 査値はNa 142 mEq/L、K 4.1 mEq/L、Ccr 110 mL/min、AST 22 U/L、ALT 43 U/L、HbA₁c 6.4%(NGSP 値)であった。アリピプラゾールを徐々に増量し、30 mg/日まで増量した結果、壁を叩くような行動はなくなった。しかし、薬剤師が病室を訪問した際、患者はろれつが回りにくく、手指振戦をきたしていることに気付いた。患者と面談したところ、トイレに行くための歩行もしづらく、日常生活に支障が生じるので困るとの訴えがあった。
問 294
この患者に認められた手指振戦は、抗精神病薬の有害作用と考えられる。その作用発現に関係するドパミン神経経路はどれか。1つ選べ。
- 中脳―辺縁系
- 中脳―皮質系
- 黒質―線条体系
- 漏斗下垂体系
- 青斑核―扁桃体系
問 295
今後の治療方針について薬剤師が行う医師への提案として最も適切なのはどれか。1つ選べ。
- しばらく経過観察
- アリピプラゾールの増量
- クエチアピンへの処方変更
- クレアチンキナーゼ値の測定
- ビペリデンの処方追加
解説
問294
手指振戦などの錐体外路症状は、抗精神病薬による黒質-線条体系におけるドパミンD2受容体遮断作用により起こります。よって正解は3です。(上の表を参照)
問295
選択肢1
日常生活に影響があるほどの副作用が出ているため、経過観察は不適切です。
選択肢2
アリピプラゾールを増量すれば副作用の症状は悪化する可能性があります。
選択肢3
アリピプラゾールは抗精神病薬の中でも、錐体外路症状が起こりにくい薬であり他の抗精神病薬への変更で、錐体外路症状が収まる可能性は低いです。また統合失調症の症状のコントロールは良好なので、処方変更は不適切と考えられます。
選択肢4
クレアチンキナーゼ値は、骨格筋、心筋、脳などの損傷の程度を推測できる指標で、心筋梗塞・筋ジストロフィーなどの診断に用いられます。錐体外路症状は、筋肉の損傷により起こるものではありません(なお、抗精神病薬の副作用でクレアチンキナーゼ値が上昇するものとして悪性症候群がありますが、悪性症候群の主症状の発熱や頻脈、頻呼吸等は見られないので、悪性症候群の可能性は除外して良いでしょう)。
選択肢5
錐体外路症状に対しては、トリヘキシフェニジルやビペリデンなどの抗コリン薬が用いられますので、正しい記述です。
よって正解は5です。
第103回問154
統合失調症治療薬に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- ハロペリドールは、黒質-線条体ドパミン神経系を介する過剰な神経伝達を抑制することで陽性症状を改善する。
- クエチアピンは、セロトニン5-HT2A受容体、ヒスタミンH1受容体及びアドレナリンα1受容体を遮断する。
- アリピプラゾールは、ドパミンD2受容体及びセロトニン5-HT1A受容体に対して部分刺激薬として作用する。
- パリペリドンは、主に大脳皮質のセロトニン5-HT2A受容体を刺激することで陰性症状を改善する。
- クロルプロマジンは、腹側被蓋野–側坐核ドパミン神経を介する過剰な神経伝達を抑制することで制吐作用を示す。
解説
選択肢1
抗精神病薬が陽性症状を改善する機序は、中脳辺縁系におけるドパミン神経の過剰な神経伝達の抑制です。黒質-線条体ドパミン神経系の抑制は、錐体外路症状の副作用が起こる機序です。(上の表を参照)
選択肢2
正しい記述です。クエチアピンやオランザピンなどは多受容体作用抗精神病薬(MARTA)の一種であり、ドパミンD2受容体、セロトニン5-HT2A受容体、ヒスタミンH1受容体及びアドレナリンα1受容体等を遮断します。
選択肢3
正しい記述です。アリピプラゾールとブレクスピプラゾールには、ドパミンD2受容体及びセロトニン5-HT1A受容体に対する部分刺激薬としての作用、そしてセロトニン5-HT2A受容体を遮断する作用があります。
選択肢4
パリペリドンなどの非定型抗精神病薬が陰性症状を改善する機序は、中脳皮質系におけるセロトニン5-HT2A受容体の遮断です。
選択肢5
定型抗精神病薬の制吐作用は、延髄の化学受容器引き金帯におけるドパミン神経を介する過剰な神経伝達の抑制によります。
よって、正解は2,3です。
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