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事務局日誌

2024年3月8日

フィリピンの七三一部隊?

本部のYです。
731部隊と言えば大日本帝国陸軍に存在した研究機関で「正式名称は関東軍防疫給水部」として、満洲に拠点を置き、兵士の感染症予防や、そのための衛生的な給水体制の研究を主任務としていたことが知られています。同時に細菌戦のための生物兵器の開発やそれに関連した人体実験などの反倫理的な活動でも知られています。指揮官であった石井四郎はじめ幹部らは、その「研究成果」をアメリカに引き渡すことと引き換えに様々な罪を免れ、戦後日本の医学界に重要な地位を占め続けました。

このことは『ハリソン内科学』という有名な教科書に言及されているほか、日本医学会の『未来への提言』に「戦時中に石井機関と七三一部隊で中国人やロシア人等を対象とした非人道的な人体実験が広範に行われ、この研究には当時の日本の医学界をリードしていた大学教授たちが多く参加していた事実がある」との反省的言及があります。
『民医連医療』2023年10月号から「731部隊から戦争と医の倫理を考える」を連載している吉中丈志先生(京都民医連中央病院)が『731部隊と大学』(京都大学学術出版会)を発刊されたので、ぜひお読みください。
 

 

英語版「日本占領時期のフィリピン」

ところで、インターネットの Wikipedia には「日本占領時期の」が冠される記事がいくつかあります。「日本占領時期の香港」「日本占領時期のフィリピン」などが「日本統治時代」で検索するとサブカテゴリーで表示されます。

Wikipediaの日本語版には「慰安婦」のことは簡単に触れられていますが、下記の事柄については掲載されていません。(2024年3月13日閲覧)
https://en.wikipedia.org/wiki/Japanese_occupation_of_the_Philippines#The_occupation
Web翻訳を元に、転載してみます。注の引用元や参照先は検索して見つかったもののURLを示しておきます。(英文は末尾に掲載します)

 日本はまた、「医師」と「外科医」をフィリピンに派遣し、現地のフィリピン人の人体実験を行った。 これらの実験の中には、生きた人間の切断、解剖、血管の縫合などが含まれていた。 外科医たちはフィリピン人に対して凄惨な生体解剖を行った。 このような実験の前に、犠牲者はまず自分たちで墓を掘ることを日本軍によって強制された。 場合によっては、生体解剖されたフィリピン人の遺体を再び縫い合わせた後、生きている犠牲者を射殺した。 他のケースでは、生体解剖された犠牲者は大きく胃が開いたまま放置され、その後腸ごと墓に捨てられ、死ぬまで放置された。人体実験を行った医師や外科医の多くは、戦後数十年後に何らかの情報が明らかになるまで、自分たちの行為について沈黙を保っていた。 このような場合、自らの行為を暴露した医師たちの「戦時中の友人」たちは、日本の戦争犯罪を擁護するために、歴史的な話が世間に公表されるのを阻止しようとした。 しかし、医師の大多数は自らの犯罪について決して語らず、快適な定年退職まで日本で責任を問われず、野放しであった。 日本の超国家主義者の中には、戦時中に犯した犯罪について話そうとする医師らに嫌がらせをした人もいる[39][40][41]。 戦後、当時のダグラス・マッカーサー将軍は日本の人体実験に関する事実を戦犯法廷から隠蔽した。すなわちマッカーサーの行動により、人体実験を行った人々が赦免された。 その後、米国は日本の戦犯を法的迫害から守ったマッカーサーの行動と引き換えに、日本から人体実験データを受け取った[42][43][44][45]。

[39] アンリ・イチムラ(2020年7月23日)。 「第二次世界大戦中に日本人がフィリピン人に対して行った残酷な生体解剖」 エスクワイア。
https://www.esquiremag.ph/long-reads/features/vivisection-japan-philippines-a00304-20200723-lfrm

[40] 「フィリピン人の生体解剖は認められた」(共同通信)、 ジャパンタイムズ紙、2006 年 11 月 27 日。
https://www.japantimes.co.jp/news/2006/11/27/national/vivisection-on-filipinos-admitted/

[41] ハリス、シェルドン H. (2003)。 「第16章:第二次世界大戦時代の日本の生物医学実験」(PDF) 『ビーム』、トーマス E. スパラチーノ、リネット R. ペレグリノ、エドマンド D. ハートル、アンソニー E. ハウ、エドマンド G. (編)。『ミリタリー・メディカル・エティクス』 Vol. 2. ワシントン DC: TMM Publications の公衆衛生総局のオフィス。 463–506ページ。
https://medcoeckapwstorprd01.blob.core.usgovcloudapi.net/pfw-images/borden/ethicsvol2/Ethics-ch-16.pdf

[42] ゴールド、ハル (2011)。 731 部隊の証言 (第 1 版)。 ニューヨーク:タトル出版。 p. 97。ISBN 978-1462900824。
https://www.amazon.co.jp/Unit-731-Testimony-Experimentation-Classics/dp/0804835659

[43] https://www.japantimes.co.jp/cgi-bin/nn20100210f3.html [bare URL PDF]
[44] 「731部隊:日本の生物部隊」。 BBCニュース世界版。 2002年2月1日。(中国における731部隊の活動被害についての記事)
http://news.bbc.co.uk/1/hi/programmes/correspondent/1796044.stm

[45] クリストファー・リード (2006)、 「米国と日本のメンゲレ:731部隊に対する報酬と恩赦」 アジア太平洋ジャーナル。
https://apjjf.org/wp-content/uploads/2023/11/article-1763.pdf
(メンゲレ…ヨーゼフ・メンゲレ。ドイツの医師、親衛隊大尉。第二次世界大戦において、アウシュヴィッツ等で「選別」を行ったほか、囚人や双子を対象に多くの人体実験を行った。)

私も知らなかったのですが、「最近の研究によると、七三一部隊は、中国各地からシンガポールなどの南方にまで広がる石井の防疫給水部ネットワーク(「石井機関」)の一部にすぎなかったことが明らかにされています」(土屋貴志氏『倫理学特論(人体実験の倫理学)(2011年度・同志社大学文学部)』「人体実験の倫理学」https://www.lit.osaka-cu.ac.jp/user/tsuchiya/class/vuniv99/exp-lec4.html)とのことです。

以前から、自国・自グループに都合の悪い歴史を「なかったこと」にするような言説や「済んだこと」として不問にしてしまう意見があります。しかし、自分たちが知らないからと言って、相手も知らないとは限りません。ぜったいに忘れられないこともあります。良いことも悪いことも。幅広い教養が友好と「高い倫理観」を支えるのだと思います。

 

 

Japanese occupation of the Philippines

ウイキペディア英語版の「日本占領時期のフィリピン」より
The occupation

The Japanese also sent “doctors” and “surgeons” to the Philippines, who performed human experimentation of native Filipinos. Some of these experiments included amputations, dissections, and suturing blood vessels of live humans. Surgeons gruesomely performed vivisections on Filipinos. Before such experiments, the victims were forced by the Japanese to dig their own graves first. In some cases, the bodies of vivisected Filipinos were sewed back up, then the living victims were shot dead. In other cases, the vivisected victims were left with huge open stomachs then dumped in their graves along with their intestines and left to die. Many of the doctors and surgeons who performed their human experimentations kept quiet about their deeds until some information came out decades after the war. In those cases, the “wartime friends” of the doctors who exposed their own acts tried to prevent the historical stories from coming out to the public in a bid to defend Japanese war crimes. The majority of the doctors, however, never spoke about their crimes and remained at-large in Japan until their comfortable retirement. Some Japanese ultra-nationalists have harassed doctors who wanted to tell about the crimes they committed during the war.[39][40][41] After the war, then General Douglas MacArthur hid facts about Japan’s human experimentation from the war crimes tribunal. His actions pardoned those who committed the human experimentations. The United States afterwards received human experimentation data from Japan, as exchange for MacArthur’s actions which protected Japanese war criminals from legal persecution.[42][43][44][45]

[39] Ichimura, Anri (23 July 2020). “The Cruel Vivisections Japanese Performed on Filipinos in WWII”. Esquire.
[40] “Vivisection on Filipinos admitted”. The Japan Times. 27 November 2006.
[41] Harris, Sheldon H. (2003). “Chapter 16: Japanese Biomedical Experimentation during the World-War-II Era” (PDF). In Beam, Thomas E.; Sparacino, Linette R.; Pellegrino, Edmund D.; Hartle, Anthony E.; Howe, Edmund G. (eds.). Military Medical Ethics. Vol. 2. Washington, DC: Office of The Surgeon General at TMM Publications. pp. 463–506.
[42] Gold, Hal (2011). Unit 731 Testimony (1st ed.). New York: Tuttle Publishing. p. 97. ISBN 978-1462900824.
[43] https://www.japantimes.co.jp/cgi-bin/nn20100210f3.html [bare URL PDF]
[44] “Unit 731: Japan’s biological force”. BBC News World Edition. 1 February 2002.
[45] Reed, Christopher (2006). “The United States and the Japanese Mengele: Payoffs and Amnesty for Unit 731”. The Asia-Pacific Journal. 4 (8). Article 2177.

フィリピンでの人体実験を語る旧日本軍兵士

2024/03/29 追記
Wikipedia や AFP「フィリピンでの人体実験を語る旧日本軍兵士」(2007年11月2日)に、上記の「人体実験」に関わる記事がありました。

第二次世界大戦時に海軍衛生兵としてフィリピンに従軍した牧野明(Akira Makino)さん(2007年5月に死去、当時84)も、その1人だ。今まで、自身の体験について語ることはなかった牧野さんが、所属部隊がフィリピンの戦場で行った人体実験の実態について語り始めたのは、妻を亡くしてからのことだった。

 牧野さんは、今でも自身がフィリピン人捕虜らに注射をして昏睡状態に陥らせ人体実験を行っているおぞましい記憶がよみがえるのだという。…

  牧野さんの告白は、中国東北部で旧日本陸軍の石井四郎(Shiro Ishii)軍医中将軍が細菌を用いた人体実験を行った「731部隊」を彷彿とさせる。

 しかし、牧野さんによれば、牧野さんの部隊が行った人体実験は、組織的なものではなく、敗戦色が濃厚となるなか自暴自棄となった軍隊による偶発的なもので、細菌を使用したり、実験データを記録したこともないという。

 牧野さんの告白は有名なもののようです。