いのちと健康を守る「架け橋」に いのちと健康を守る「架け橋」に

健康・お役立ち情報

2021年6月25日

片頭痛の治療薬

本部のTです。

片頭痛の病態に引き続き、今回は片頭痛の治療薬についてまとめました。

1. 片頭痛の予防薬

  • 片頭痛発作の頻度が多い場合(月2回以上)や,急性期治療のみでは片頭痛には対応できない場合には予防薬が使用されます。
  • いずれも毎日服用することで、片頭痛の発作頻度を抑制し、発作時の頭痛を軽減することを目的とした薬になります。効果が現れるまでに、数か月かかる場合もあります。あくまで予防薬であるため、痛みが始まってから使用する薬ではありません。

以下に主な予防薬について書きました。

○ プロプラノロール

  • 高血圧、冠動脈疾患、狭心症、頻脈性不整脈の治療薬でもあります。そのため、高血圧や冠動脈疾患を有する方でも使用でき、副作用も比較的少ない薬ですが、喘息や心不全、低血圧等の疾患のある方は、使用できません。
  • 片頭痛の急性期治療薬であるリザトリプタンとは併用できません(詳細は後述)。

○ ロメリジン

  • 副作用が比較的少ない薬ですが、妊婦または妊娠の可能性のある方には使用できません。

○ バルプロ酸

  • てんかんや躁うつ病の躁状態の治療薬でもあります。重篤な肝障害のある患者さんには使用できず、定期的に肝機能の検査をする必要があります。
  • 妊婦または妊娠の可能性のある方は、片頭痛の予防薬としてこの薬を使用することはできません。

○ その他の予防薬

  • 他にも、抗うつ薬のアミトリプチリンなどが予防薬として使用されることがあります。
    また、ビタミンB2に予防効果があるという研究結果も報告されています。
  • 既存の予防薬では対応できない片頭痛には、ガルカネズマブ注射液(商品名:エムガルティ皮下注)という月に1回病院で投与してもらう注射の予防薬も2021年に登場しています。
    ※追記:エムガルティ皮下注は2022年に在宅自己注射が可能な薬剤となりました。

 

2. 急性期(頭痛発作時)の治療薬

  • 軽度の片頭痛の急性期治療薬としてはアセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性鎮痛薬。アスピリン、イブプロフェン、ジクロフェナク等)といった鎮痛薬が使用されます。
  • 中等度~重度の片頭痛やアセトアミノフェン/NSAIDsが無効だった時にはトリプタン製剤が主に使用されます。

 

○ トリプタン製剤

  • 日本では、スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン、ナラトリプタンの5種類が販売されています。
  • トリプタン製剤は片頭痛発作初期に服用することで、最大限の効果を発揮し、頭痛を緩和します。特に片頭痛発作が始まって1時間以内の服用が効果的とされています。服用が遅れると、効果が減弱します。逆に頭痛が始まる前の服用は効果がないとされています。

  • また、トリプタン製剤を過剰に服用すると、かえって頭痛の悪化、頻度の増加が起きる場合があるため、一ヶ月に10回以上服用しないように注意する必要があります。
  • スマトリプタンは錠剤の他に点鼻液、注射剤があります。吐き気・嘔吐を伴う片頭痛で、錠剤の服用が困難な場合は点鼻液が有用です。
  • ゾルミトリプタン、リザトリプタンには、唾液で溶ける口腔内崩壊錠が存在するので、通常の錠剤では服用が難しい場合、口腔内崩壊錠の使用も選択肢の一つです。
  • 前述のとおり、リザトリプタンはプロプラノロールとは併用できません。この二つの薬剤の代謝にはA型MAOと呼ばれる酵素が関わっているため、プロプラノロールの服用によって、リザトリプタンの代謝が遅くなり、作用の増強・副作用の発現の恐れがあります。
  • ナラトリプタンは、効果発現が遅く、作用も弱い代わりに、効果の持続時間が長い長時間型です。月経に関連した片頭痛など、軽症で一定期間発作を繰り返す片頭痛に適しています。

 

最後に

  • 片頭痛は日常生活に支障が出る場合も多く、厄介な疾患ですが、ある程度はコントロール可能です。薬だけでなく、頭痛が始まったら暗く静かなところで休む、痛む箇所を冷やすなどそれぞれの患者さんにあった対処法も重要です。
  • 片頭痛の疑いのある方は、きちんと医師の診断を受け、治療を始めることをお勧めします。すでに片頭痛治療中の方は、医師の指示を守り、もしわからないことや不安なことがあれば、医師・薬剤師にお気軽にご相談ください。

 

参考文献

「慢性頭痛の診療ガイドライン 2013年」

「国際頭痛分類第3版:ICHD-3」(2018年) 

「福岡県薬剤師会 質疑応答」(2011年)