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学術研修

2022年1月21日

薬剤師国家試験(心不全と薬 105回問163-164)

本部のTです。

今回も薬学生の皆さんに向けて、薬剤師国家試験の問題を取り上げて、解説してみました。

 

105回薬剤師国家試験 問163-164

58歳男性。5年前より健康診断にて高血圧症を指摘されていたが放置していた。1年前には心肥大も指摘され、その頃から労作時に呼吸が苦しくなるようになった。
ある日、発作性夜間呼吸困難のため、緊急入院した。入院時に浮腫が認められ、胸部レントゲンで、心肥大の増悪と肺うっ血像が認められた。
 

問163
この患者に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. 浮腫は気管支喘息に特有の症状である。
  2. 脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が増加している。
  3. 重症度分類にはNYHA分類やAHA/ACC分類が有用である。
  4. 心電図においてST上昇が認められる。
  5. 心胸郭比は35%以下である。

 

解説

まず問題文中の「心肥大」、「呼吸が苦しく」、「夜間呼吸困難」、「浮腫」、「肺うっ血」というキーワードから、この患者が心不全であると推測できます。(12/24の記事を読んでいただくとわかりやすいと思います。)

高血圧などによる心臓への負荷が続くと、心筋が増大し、心肥大が起こります。心肥大が起こると心筋の線維化、硬化が起こります。これを心筋のリモデリングといいます。リモデリングにより、心臓の収縮力・拡張力が低下し、心不全を引き起こすことになります。

 

選択肢1 ×

気管支喘息で浮腫が起こることはほとんどありません。
浮腫の原因として考えられるのは心臓や腎臓の悪化などですが、この患者の場合、前述のように心不全による浮腫であると考えられます。

 

選択肢2 ○

脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は、利尿作用や血管拡張作用を示し、心臓への負荷を軽減する働きを持つホルモンです。心臓への負荷が高まると分泌量が増えるため、心不全のマーカーとなります。
※なお、発見時に豚の脳から見つかったため、「脳性」という名称になっていますが、実際には心臓から分泌されます(主に心室で合成)。

 

選択肢3 ○

NYHA 分類は、日常生活での疲労、動悸、呼吸困難、狭心痛など、身体活動についての自覚症状による評価です。AHA/ACC は、ステージ分類による評価です。どちらも重症度分類として有用です。

 

選択肢4 ×

ST上昇は、冠れん縮性狭心症(異型狭心症)や急性心筋梗塞などで観察される現象です。心不全に特徴的な現象ではありません。

 

選択肢5 ×

心胸郭比とは、胸郭で最も幅の広い部分の長さと、心臓の最も幅のある部分の長さの比のことで、一般的に成人では50%未満が正常とされ、50%以上で心拡大/心肥大とされます。この患者では、心肥大が起こっているため、心胸郭比が50%以上になっていると考えられます。

よって正解は2,3です。

 

問164
この患者に対して、症状の改善や心臓への負荷を軽減するため、作用機序の異なる2つの薬物が治療薬の候補となった。それぞれの主な作用点と作用、主な細胞内の反応、前負荷及び後負荷に及ぼす影響の組合せのうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

主な作用点と作用 主な細胞内の反応 前負荷 後負荷
1 Na+,K+ATPaseの阻害 K+濃度上昇 軽減 不変
2 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)受容体の刺激 サイクリックGMP(cGMP)濃度上昇 軽減 軽減
3 アデニル酸シクラーゼの活性化 サイクリックAMP(cAMP)濃度上昇 軽減 不変
4 ホスホジエステラーゼⅢの阻害 cGMP濃度上昇 軽減 軽減
5 可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化 cGMP濃度上昇 軽減 軽減

 

解説

まず前負荷と後負荷について。

前負荷は心筋の収縮直前に加えられる負荷のことで、心臓に戻ってくる血液量(静脈還流量)が大きいほど、前負荷は大きくなります。一方、後負荷は心筋の収縮開始後に加えられる負荷のことで、いわば血液の送り出しやすさであり、末梢血管抵抗、血液粘稠度、動脈の弾性などの影響を受けます。

 

選択肢1 ×

Na+-K+ATPaseを阻害する薬は、強心薬であるジギタリス系製剤(ジゴキシン、メチルジゴキシン、デスラノシド)です。その作用機序は「心筋細胞のNa+-K+ATPaseの阻害→細胞内のNa+濃度上昇→Na+-Ca2+交換体の抑制→細胞内のCa2+濃度上昇→心収縮力増大」であるため、細胞内の反応として「K+濃度上昇」という記載は間違いです。

 

選択肢2 ○

心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)は心臓で合成される血管拡張・利尿作用を持つホルモンであり、ヒト遺伝子組み換えANP製剤としてカルペリチドがあります。カルペリチドは血管平滑筋のANP受容体を刺激することで、細胞内cGMP濃度を上昇させ、血管拡張作用および利尿作用を示します。血管拡張により、血管の抵抗を減らすことで後負荷を軽減し、利尿作用で体液量を減少させることで前負荷を軽減します。

 

選択肢3 ×

該当する薬はコルホルシンダロパートです。コルホルシンダロパートは、心筋のアデニル酸シクラーゼを活性化し、細胞内cAMP濃度を増加させることで心筋収縮力を増大させる強心薬です。また血管平滑筋のアデニル酸シクラーゼを刺激することで、血管拡張作用も示し、後負荷を軽減させます。よって後負荷が「不変」の記載は間違いです。

 

選択肢4 ×

該当する薬として、ミルリノン、オルプリノン、ピモベンダンがあります。心筋細胞内のホスホジエステラーゼⅢを阻害することで、細胞内cAMP濃度を上昇させ、心筋収縮力を増大させる強心薬です。よって、細胞内の反応として「cGMP上昇」という記載は間違いです。また、血管平滑筋内のPDEⅢを阻害することで、血管拡張作用も示し、後負荷を軽減させます。

 

選択肢5 ○

該当する薬は、硝酸薬(ニトログリセリン、硝酸イソソルビド)です。その作用機序は、「体内で一酸化窒素(NO)を遊離→血管平滑筋の可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化→cGMP濃度上昇→末梢の静脈および動脈を拡張」です。末梢の静脈を拡張し、静脈に保持できる血液量が増やすことで、心臓に戻ってくる血液量、つまり前負荷が軽減します。また動脈の拡張により、後負荷も軽減させます。

よって正解は2,5です。

なお、強心薬には間接的な利尿作用もあり(心収縮力増大により、腎血流量が増加するため)、前負荷を軽減すると考えられます。よって、選択肢1~4について、前負荷が「軽減」となっているのは間違いではありません。ただし実際には、前負荷軽減を目的として強心薬が用いられることは基本的にありません。

以下に、心不全治療薬についてまとめました。(今回の問題で取り上げていない薬も含みます。)

 

1.強心薬

強心薬は心収縮力を増大させる薬です。

 

表1 強心薬の作用機序

薬品名 作用機序
β1受容体刺激薬
  • ドブタミン
  • デノパミン
  • ドパミン
心筋のβ1受容体を刺激することにより、Gsタンパク質を介してアデニル酸シクラーゼ(AC)を活性化。
心拍数上昇。
アデニル酸シクラーゼ活性化薬
  • コルホルシンダロパート
ACを活性化することにより、細胞内cAMPを増加させる。血管拡張作用あり。
心拍数上昇。
cAMP製剤
  • ブクラデシン
細胞内でcAMPとなり、直接cAMPを増加。血管拡張作用あり。
心拍数上昇。
非選択的ホスホジエステラーゼ阻害薬
  • アミノフィリン
  • ジプロフィリン
  • プロキシフィリン
cAMPを分解するホスホジエステラーゼ(PDE)を阻害することで、cAMPが5-AMPに代謝されるのを阻害し、cAMPを増加。冠血管拡張作用も持つ。また気管支拡張作用もあり、喘息にも用いられる。
心拍数上昇。
ホスホジエステラーゼⅢ阻害薬
  • ミルリノン
  • オルプリノン
PDEⅢを選択的に阻害して、細胞内のcAMPを増加。血管拡張作用あり。
心拍数上昇。
トロポニンC感受性増強薬
  • ピモベンダン
Ca2+に対するトロポニンCの感受性を増強する。弱いPDEⅢ阻害作用も持つ。
ジギタリス製剤
  • ジゴキシン
  • デスラノシド
  • メチルジゴキシン
心筋細胞のNa+-K+ATPaseの阻害することで、Na+-Ca2+交換体を抑制し、細胞内のCa2+濃度上昇。心拍数抑制作用あり。

 

図1 心筋細胞での強心薬の働き

 

表1と図1を見てもらえばわかるように、ジギタリス製剤以外の強心薬は、心筋細胞内において、cAMPを増加させることで心筋細胞の収縮力を増強します(陽性変力作用)。また、心拍数を上昇させ(陽性変時作用)、血管平滑筋においては血管拡張作用を示します(後負荷軽減)。ただし、血管平滑筋には、β1受容体は存在しない(α1とβ2受容体が存在する)ため、β1受容体刺激薬は血管拡張作用を持ちません。

一方、ジギタリス製剤は、心筋細胞の収縮力を増強し(陽性変力作用)、心拍数を抑制します(陰性変時作用)

 

2.心臓への負荷を軽減する薬

心臓への負担を軽減することで、心不全を治療するのが以下の薬です。

表2 心臓への負荷を軽減する心不全治療薬

薬品名 作用機序
利尿薬
  • フロセミド
  • トリクロルメチアジド
  • スピロノラクトン

利尿作用により、体液量を減少させることで前負荷を軽減。
硝酸薬
  • ニトログリセリン
  • 硝酸イソソルビド
可用性グアニル酸シクラーゼを活性化し、末梢の静脈・動脈を拡張。前負荷と後負荷を軽減。
ANP製剤
  • カルペリチド
血管および腎臓における ANP 受容体に作用して、グアニル酸シクラーゼを活性化させる。それにより血管拡張、利尿作用を示し、前負荷と高負荷を軽減。
ACE阻害薬
  • エナラプリル
  • リシノプリル
アンジオテンシンⅡの産生に関わるACEを阻害することで、降圧作用、血管拡張作用、心筋のリモデリング抑制作用を示し、前負荷・後負荷を軽減。
ARB
  • カンデサルタン
アンジオテンシンⅡの受容体であるAT1受容体を阻害することで、降圧作用、血管拡張作用、心筋のリモデリング抑制作用を示し、前負荷・後負荷を軽減。
ARNI
  • サクビトリルバルサルタン
上記のARBの一種であるバルサルタンに、サクビトリルというネプリライシン阻害薬を結合させたもの。
ネプラシイシンはANPやBNPなどのホルモンを分解するため、それを阻害することで、血管拡張・利尿作用を示す。
α、β受容体

遮断薬

  • カルベジロール
α遮断により血管拡張を引き起こし、前負荷・後負荷を軽減するとともに、β遮断により、心機能を抑制。心筋の酸素消費量を減少させることにより心臓の負荷を小さくし、心筋のリモデリングを防ぐ。
β1受容体遮断薬
  • ビソプロロール
β遮断により、心機能を抑制。心筋の酸素消費量を減少させることにより心臓の負荷を小さくし、心筋のリモデリングを防ぐ。
SGLT2阻害薬
  • ダパグリフロジン
尿細管から血液中への糖の再吸収を抑える糖尿病治療薬だが、2020年に慢性心不全への適応が追加。心不全への作用機序は明確ではないが、利尿作用、糖毒性の軽減、腎保護作用などにより心臓への負荷を軽減すると考えられる。
HCNチャネル阻害薬
  • イバブラジン
心臓のペースメーカーである洞結節のHCN4チャネルを阻害することで、心拍数のみを減少させる。安静時心拍数が75回/分以上の慢性心不全に適応。

※他にも、ベルイシグアトというsGC刺激薬が、2021年6月に慢性心不全治療薬として販売承認されています。

 

3.心不全治療薬についての経緯・考え方 (2022/2/21追記)

 かつては心不全治療として、強心薬によって心筋収縮力を高めることが重視されていた時期もありました。しかしながら現在では、強心薬の使用は心不全患者の生命予後の改善につながらないことが研究で明らかになっており、心臓への負担を軽減することによって生命予後を改善することが重視されています。そのため、強心薬が使用される場面は、末梢循環不全を伴う急性心不全や重度の慢性心不全患者のQOL改善など、限定的になっています。

 こういった経緯については、国試対策として覚える必要はありませんが、頭の隅に入れておくと心不全治療薬について理解しやすくなるでしょう。心不全治療薬として、β受容体刺激薬(強心作用)とβ受容体遮断薬(心機能抑制)の両方があるのも上記の考え方からです。

 

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