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学術研修

2022年6月15日

薬剤師国家試験(CYP関連 105回問272-273 等)

本部のTです。

今回は前回に引き続きCYPの関連問題として薬剤師国家試験の第105回問272-273、第103回問169、第103回問194、第106回問228-229を取り上げ、解説してみました。

ぜひCYP関連のまとめ記事も参考にしながら解いてみてください。

 

105回 問 272−273

54 歳女性。152 cm、48 kg。高血圧、脂質異常症、深在性皮膚真菌症の治療のため処方 1 と処方 2 の薬剤を服用していた。その後、深部静脈血栓塞栓症を発症し、その治療のため処方 3 が追加となった。

(処方 1 )
アムロジピン口腔内崩壊錠 5 mg 1 回 1 錠( 1 日 1 錠)
イトラコナゾール錠 100 mg 1 回 1 錠( 1 日 1 錠)
1 日 1 回 朝食直後 14 日分

(処方 2 )
イコサペント酸エチル粒状カプセル 900 mg  1 回 1 包( 1 日 2 包)
1 日 2 回 朝夕食直後 14 日分

(処方 3 )
ワルファリンカリウム錠 1 mg  1 回 3 錠( 1 日 3 錠)
1 日 1 回 朝食後  7 日分

PT-INR を治療目標域に到達させるため、ワルファリン投与量の調節を試みたが、PT-INR が 3.0~6.0 で推移し、コントロールが困難であった。医師は患者や薬剤師と相談し、薬物動態関連遺伝子の多型を検査することにした。

 

問 272(薬剤)

多型を検査すべき遺伝子として、適切なのはどれか。1つ選べ。

  1. CYP2C9
  2. CYP2C19
  3. CYP2D6
  4. UGT1A1
  5. NAT2

 

問 273(実務)

遺伝子多型検査の結果、ホモの変異を有することが判明し、医師は代替薬について薬剤師に相談した。医師に提案すべき抗血栓薬として最も適切なのはどれか。1つ選べ。

  1. アピキサバン錠
  2. シロスタゾール錠
  3. ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩カプセル
  4. チクロピジン塩酸塩錠
  5. リバーロキサバン錠

 


解説

問272

薬物代謝能には個人差があり、その原因の一つが遺伝子多型です。遺伝子多型により特定の薬に関し代謝能が低い場合をPM(Poor Metabolizer)と呼びます。なお、代謝能がある場合はEM(Extensive Metabolizer)と呼びます。

「ワルファリン投与量の調節を試みたが、PT-INR が 3.0~6.0 で推移し、コントロールが困難であった。」と記載のあるように、この患者の場合ではワルファリンの抗凝固作用が強く出すぎており、ワルファリンの代謝にかかわる酵素のPMである可能性があります。

そのため、ワルファリンの主な代謝酵素であるCYP2C9の遺伝子多型を検査すべきです。

よって答えは1です。

 

問273

問題文からこの患者はCYP2C9のPMであったことがわかります。深部静脈血栓塞栓症に対して抗凝固薬のワルファリンが処方されているわけですから、同じ抗凝固薬を選ばなければなりません。選択肢の中では、1 アピキサバン、3 ダビガトラン、5 リバーロキサバンの3つが候補となります。

この患者はイトラコナゾールを服用しており、ダビガトランはイトラコナゾールのP-糖タンパク質阻害作用による相互作用のため併用禁忌です。また、リバーロキサバンはイトラコナゾールのCYP3A4阻害作用およびP-糖タンパク質阻害作用による相互作用のため併用禁忌です。よって、1 アピキサバンが正解となります。

 

 

103回 問169

Poor metabolizer(PM)において薬効が低下する薬物と代謝酵素の組合せとして正しいのはどれか。1つ選べ。

 

 

 

 

 

 

 


解説

いずれも、薬物とその主な代謝酵素の組み合わせとしては正しいです。

しかし、選択肢1、2、4、5の薬物はいずれも代謝されることによって活性を失う薬であるため、代謝能が低いPMでは血中濃度が上昇し、薬効が増強します。

3のクロピドグレルはCYP2C19で代謝されて活性代謝物となるため、PMでは活性代謝物の血中濃度が低下し、薬効が低下します。

よって答えは3です。

 

 

103回 問 194

薬物代謝酵素の遺伝子多型に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. CYP2C19 の poor metabolizer(PM)では、オメプラゾール併用のピロリ菌除菌療法の効果が減弱する。
  2. CYP2D6 の extensive metabolizer(EM)では、コデインの鎮痛効果が減弱する。
  3. CYP2C9 の PM では、フェニトインによる中枢毒性発現のリスクが増大する。
  4. N-アセチル転移酵素2 (NAT2)の slow acetylator(SA)では、イソニアジドによる副作用のリスクが増大する。
  5. CYP2C19 の PM の頻度は欧米人では 5~10%であるが、日本人では約1%である。

 


解説

選択肢1 ×
オメプラゾールはCYP2C19によって代謝される薬であり、CYP2C19のPMではオメプラゾールの血中濃度が上昇し、効果が増強します。よって「ピロリ菌除菌療法の効果が減弱する。」は間違いです。

選択肢2 ×
コデインはCYP2D6によって代謝されることで、モルヒネとなって活性を持ちます。そのため、CYP2D6のEMでは、コデインの鎮痛効果が発揮されます。

選択肢3 ○
フェニトインはCYP2C9によって代謝され不活性化するため、CYP2C9のPMではフェニトインの血中濃度が増加し、作用・副作用が増強します。中枢毒性発現等のリスクも増大するため、この選択肢は正しいです。

選択肢4 ○
イソニアジドは主にN-アセチル転移酵素2(NAT2)によって代謝されます。そのためNAT2のslow acetylator(代謝が遅い)では、NAT2の代謝が遅れ、イソニアジドの血中濃度が上昇するため、副作用のリスクが増大します。

イソニアジドの代謝酵素がNAT2であることは覚えておきましょう。

選択肢5 ×
日本人では、CYP2C19のPMが多いです。欧米人でのPMの頻度は3~5%程度と低いですが、日本人では約20%となっています。

よって、答えは3,4です。

 

 

106回 問 228−229

60 歳男性。高血圧症及び不眠症のため、 2 週間ごとに近医を受診していた。最近、呼吸困難感及び胸痛を認め、さらに血痰及び喀血を生じたため、精査加療目的で大学病院に入院となった。その後、侵襲性肺アスペルギルス症と診断され、ボリコナゾールによる治療を翌日から開始することになった。入院時の持参薬は以下のとおりである。

アジルサルタン錠 20 mg 1 回 1 錠  1 日 1 回 朝食後 14 日分
スボレキサント錠 20 mg 1 回 1 錠  1 日 1 回 就寝前 14 日分

 

問 228(実務)

ボリコナゾール投与開始にあたり、病棟担当薬剤師は持参薬の内容を確認して、病棟担当医に服用する薬剤の変更を提案した。その内容として適切なのはどれか。1つ選べ。

  1. アジルサルタン錠をテルミサルタン錠に変更
  2. アジルサルタン錠をアムロジピンベシル酸塩錠に変更
  3. アジルサルタン錠をアゼルニジピン錠に変更
  4. スボレキサント錠をロルメタゼパム錠に変更
  5. スボレキサント錠をトリアゾラム錠に変更

 

問 229(衛生)

ボリコナゾールと処方変更前の薬物との相互作用の機序として適切なのはどれか。1つ選べ。

  1. プレグナン X 受容体(PXR)を介した CYP₃A4 の誘導
  2. P-糖タンパク質の阻害
  3. CYP3A4 タンパク質との共有結合による阻害
  4. CYP のヘム鉄との配位結合による阻害
  5. P-糖タンパク質の誘導

 


解説

問228

ボリコナゾールはCYP3A4の阻害作用を持ち、CYP3A4で代謝されるスボレキサント、トリアゾラムとは併用禁忌です。よってスボレキサントをCYPで代謝されないロルメタゼパムに変更する必要があります。

答えは4です。

 

問229

ボリコナゾールなどのアゾール系抗真菌薬はCYPのヘム鉄に配位結合することにより、CYPを阻害します。よって答えは4です。

 

最初に書いた通り、分からなかった問題がある人はCYP関連のまとめ記事 も参考にしてください。

 

↓他の国試関連の記事も、よければ参考にしてください。

 

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