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学術研修

2023年2月28日

第108回薬剤師国家試験 理論問題-薬理 問151~問153

本部のTです。
第108回薬剤師国家試験を受験された皆様、お疲れ様でした。
第108回で出た問題の中から理論問題-薬理を数回に分けて解説したいと思います。
今回は問151~問153の解説をします。次回の問154-156はこちら
 

 目次

 

108回問151

完全アゴニストの濃度-反応曲線(曲線A)に関連する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. 部分アゴニストは、完全アゴニストによる最大反応には影響せず、曲線Aを低濃度側に平行移動させる。
  2. 競合的アンタゴニストは、受容体に可逆的に結合し、曲線Aを高濃度側に平行移動させる。
  3. 非競合的アンタゴニストは、完全アゴニストによる最大反応には影響せず、曲線Aを高濃度側に平行移動させる。
  4. 逆アゴニストは、曲線Aを低濃度側に平行移動させる。
  5. 完全アゴニストに化学修飾を加え、内活性は変えずに受容体に対する親和性だけを上げると、その濃度-反応曲線は、曲線Aより低濃度側に位置する。

 

解説

濃度-反応曲線が低濃度側に移動すると、同じ反応の強さがより低い濃度で起こることを示し、濃度-反応曲線が高濃度側に移動すると、同じ反応の強さがより高い濃度で起こることを示します。

Inverse agonist diagram japaense.svg図1 アゴニスト、アンタゴニスト等の単体での用量反応曲線
(CC0, リンクから引用)

Antagonist competition japanese.svg図2 競合アンタゴニスト・非競合アンタゴニストによる用量反応曲線の移動
(
CC0, リンクから引用)

選択肢1 ×
部分アゴニストによって、完全アゴニストの受容体への結合は阻害されるため、完全アゴニストのみが存在している状態よりも反応が弱くなります。言い換えると、部分アゴニストの存在下では、通常の反応を引き起こすのに完全アゴニストのより高い濃度が必要とされます。
しかし、完全アゴニストの濃度を高くしていくと、部分アゴニストは受容体より追い出され、完全アゴニストの最大反応の大きさは100%となります。
また、完全アゴニストの濃度が低い状態でも、部分アゴニストによる反応が起こるため、作用の強さは0にはなりません。
よって曲線Aは以下の図3のようになるため、「低濃度側に平行移動させる。」という記述は間違いです。

図3 部分アゴニスト+完全アゴニスト

選択肢2 ○
その通りの記述です。(図2を参照)

選択肢3 ×
非競合的アンタゴニストは、アゴニスト結合部位以外の部位に結合し、受容体の構造を変化させて、アゴニストの結合を阻害するものや、アゴニストの結合部位に不可逆的に結合するものなどがあります。完全アゴニストの濃度をいくら上げても、非競合的アンタゴニストは受容体から外れないため、完全アゴニストの最大反応を低下させます。
(図2を参照)

選択肢4 ×
受容体の中には、アゴニストが結合していない状態でも、一定の活性(基礎活性)を持つ受容体があります。このような基礎活性を持つ受容体を不活性化させる薬物のことを、逆アゴニスト(インバースアゴニスト)と言います。逆アゴニストの存在下では、通常の反応を引き起こすのにより高い濃度の完全アゴニストが必要とされるので、曲線Aは高濃度側に移動します。
(図1、図2を参照)

選択肢5 ○
その通りの記述です。親和性が上がるということは、完全アゴニストが受容体により結合しやすくなり、通常より低濃度で反応が起こるため、曲線Aより低濃度側に位置した曲線となります。

よって正解は2,5です。

 

・問題に対する個人的な感想:
濃度-反応曲線の問題はそれなりの頻度で過去にも出題されていますが、今回は今まで出てこなかったタイプの出題のされ方となっていてやや難しく感じるかもしれません
しかし、部分アゴニストや逆アゴニストの意味を理解してよく考えて解けば十分正解できる問題です。時間に余裕があれば、図を書いて確認するのも良いと思います。

 

108回問152

自律神経系に作用する薬物に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. シロドシンは、アドレナリンα1A受容体を遮断して、前立腺部の平滑筋収縮を抑制する。
  2. エチレフリンは、アドレナリンβ1受容体を遮断して、心拍出量を減少させる。
  3. リトドリンは、アドレナリンβ2受容体を刺激して、子宮平滑筋を弛緩させる。
  4. グリコピロニウムは、アセチルコリンM3受容体を刺激して、気管支平滑筋を弛緩させる。
  5. セビメリンは、アセチルコリンM3受容体を遮断して、唾液分泌を高める。

 

解説

選択肢1 ○
その通りの記述です。

選択肢2 ×
エチレフリンは、アドレナリンβ1受容体を刺激して、心拍出量を増加させます。アドレナリンなど「~レナリン」「~レフリン」と語尾につく語はアドレナリン受容体を刺激する薬です。

選択肢3 ○
その通りの記述です。

選択肢4 ×
グリコピロニウムは、アセチルコリンM3受容体を遮断して、気管支平滑筋を弛緩させます。喘息の治療薬として抗コリン薬の吸入薬があることを思い出せば、アセチルコリンM3受容体を遮断すると、気管支平滑筋が弛緩することがわかります。

選択肢5 ×
セビメリンは、アセチルコリンM3受容体を刺激して、唾液分泌を高めます。抗コリン薬の副作用として口渇がありますが、あれはアセチルコリンM3受容体を遮断して、唾液の分泌が抑制されることによって起こります。

よって正解は1,3です。

 

・問題に対する個人的な感想:
刺激と遮断がややこしくなりがちなこの手の問題ですが、エチレフリンは機序を覚えておくべき薬ですし、選択肢4,5も他の薬との関連から誤りであると判断できます。

 

108回問153

統合失調症治療薬に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. ハロペリドールは、中脳辺縁系におけるドパミンD2受容体を遮断することで、統合失調症の陽性症状を改善する。
  2. アリピプラゾールは、黒質線条体ドパミン神経系を抑制することで、統合失調症の陰性症状を改善する。
  3. オランザピンは、セロトニン5-HT2A受容体を刺激することで、体重増加を起こす。
  4. ペロスピロンは、セロトニン5-HT1A受容体を遮断することで、抗不安作用を示す。
  5. クロルプロマジンは、ヒスタミンH1受容体及びアドレナリンα1受容体を遮断することで、鎮静作用を示す。

 

解説

選択肢1 ○
その通りの記述です。

選択肢2 ×
アリピプラゾールなどの非定型抗精神病薬は、中脳皮質系の5-HT2A受容体を遮断することで統合失調症の陰性症状を改善します。「黒質線条体ドパミン神経系を抑制」というのは、副作用の錐体外路症状が起こる機序です。

選択肢3 ×
体重増加の副作用は、H1受容体遮断、5-HT2c受容体遮断によるものです。体重増加の機序は覚えていない人も多かったかも知れませんが、そもそもオランザピンは5-HT2A受容体を遮断する薬であることがわかっていれば、消去できた選択肢です。

選択肢4 ×
ペロスピロンは、セロトニン5-HT1A受容体を刺激することで、抗不安作用を示します。
ペロスピロンにセロトニン5-HT1A受容体の刺激作用があることは参考書にも記載されていないことが多いですが、それを知らなくても、タンドスピロンのように5-HT1A受容体刺激による抗不安薬があることを思い出せば、「遮断」という記述が間違いだと気づけます。

選択肢5 ○
その通りの記述です。

よって正解は1,5です。

 

・問題に対する個人的な感想:
統合失調症の問題としては、やや難しいところを突いてきている問題です。ただ選択肢1,2については基礎的な知識を問われていますし、選択肢3,4は周辺の知識から正誤を判断できるので、しっかり考えて正解にたどり着きましょう。

↓下の記事で統合失調症治療薬についてまとめていますので参考にしてください。

統合失調症治療薬まとめの記事へのリンク

 

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