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学術研修

2021年7月6日

第106回薬剤師国家試験問141(薬害関連問題)

本部のTです。
今年の薬剤師国家試験の問題を見ていて、薬害に関連する問題があったので、その簡単な解説をしてみました。

主に薬学生さんに向けた記事です。関連する薬の知識も書きました。

国試に出やすいと思われる部分を太字にしましたが、それ以外の部分も、国試に出るか否かに関わらず薬剤師として知っておくべき内容だと思います。

 

第106回 一般理論問題 問141

過去に重篤な副作用で問題となった医薬品成分のうち、適切な安全対策などを施すことで別の適応症で承認を受けたものがいくつかある。その組合せとして適切なのはどれか。1つ選べ。

医薬品成分 副作用 別の適応症
1  サリドマイド  四肢奇形  多発性骨髄腫
2  クロロキン  網膜症  髄膜炎
3  ソリブジン  ウイルス性肝炎  帯状疱疹
4  キノホルム  自閉症  アルツハイマー病
5  ゲフィチニブ  間質性肺炎  インフルエンザ

 

解説

1.サリドマイド
  • サリドマイドはもともと睡眠薬として発売されていました。しかし、催奇形性があり、妊娠初期の服用で四肢奇形(アザラシ肢症、サリドマイド胎芽症)の新生児が生まれることがわかり、発売中止となりました。
  • 催奇形性が発覚してから、発売中止まで時間がかかったため、世界中で5000人以上の被害者を生むこととなりました。西ドイツで販売中止と回収がなされてからも、日本では約10ヶ月に渡って販売が続けられました。
  • その後、多発性骨髄腫にサリドマイドが有効であることがわかり、現在は安全管理手順書(TERMS)を順守することを前提に、再発または難治性の多発性骨髄腫に使用されます(商品名:サレド)。
  • 多発性骨髄腫は腫瘍化した形質細胞が異常増殖する疾患です。骨の痛みや骨折、腎臓障害、免疫力低下、貧血、神経障害等が起こります。
  • 安全管理手順には、
    • 関係者への情報提供、教育の実施
    • 処方医師、責任薬剤師、患者を製造販売業者に登録すること
    • 以下の期間の妊娠回避の徹底
      • 女性患者及び男性パートナー:本剤服用開始 4 週間前から本剤服用中止 4 週間後まで
      • 男性患者: 本剤服用開始時から本剤服用中止 4 週間後まで
    • 本剤服用開始時から本剤服用中止4週間後まで授乳を避ける
    • 患者は毎回服用状況を記録し、診察時ごとに処方医師及び責任薬剤師等へ報告する。
    • 紛失した場合は、処方医又は調剤した薬剤師に連絡する。
    • 服用中止等の理由で不要薬が発生した場合、責任薬剤師等に返却する。
    • 入院中は医療従事者が数量管理を行う。

等々が定められています。

 (関連問題:第104回問312、第103回問337、第101回問316)

 

  • サリドマイドは多発性骨髄腫の他に、らい性結節性紅斑(ハンセン病の急性炎症症状)、クロウ・深瀬症候群にも適応があります。
  • またサリドマイドの誘導体としてレナリドミド(商品名:レブラミド)、ポマリドミド(商品名ポマリスト)があり、これらもレブラミド・ポマリスト適正管理手順(Revmate)を順守することを前提に再発または難治性の多発性骨髄腫に使用されます。レブラミドは、骨髄異形成症候群、成人T細胞白血病リンパ腫、濾胞性/辺縁帯リンパ腫にも使用されます。

2.クロロキン
  • クロロキンは、抗マラリア薬として発売され、日本では科学的根拠が無いにも関わらず慢性腎炎やてんかんにも適応拡大されました。その結果、副作用のクロロキン網膜症を患う人が多数出ました。現在は発売中止されています。
  • 類似の構造を持つ薬としてヒドロキシクロロキンがあります。ヒドロキシクロロキンは、海外で抗マラリア薬として使用されてきましたが、エリテマトーデス(発熱、全身性の炎症、多臓器病変など様々な症状を引き起こす自己免疫疾患)に効果があることがわかり、日本ではエリテマトーデスに適応があります。
  • ただし、クロロキンに比べると網膜毒性は低いものの、ヒドロキシクロロキンにもやはり網膜症の危険性はあり、網膜症に対応できる眼科医と連携の下、定期的な眼科検査を実施しながら使用する必要があります。
  • なお、ヒドロキシクロロキンは一時期、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)に効果があるのではないかと言われたことがありましたが、有効性を示すデータは得られず、米FDAは「効果的である可能性は低い」として、緊急使用許可を撤回しました。

3.ソリブジン
  • ソリブジンは帯状疱疹の抗ウイルス薬として発売されました。しかし、ソリブジンは抗癌剤の5-FU(フルオロウラシル)との強い相互作用があり、16人の死亡者を出し、発売中止になりました。(関連問題:第102回問77)
  • ソリブジンの代謝物はDPD酵素を阻害し、5-FUの不活性代謝物への代謝を阻害します。それにより、5-FUの活性代謝物の量を増大させ、その作用・副作用が大幅に増強されることで、重篤な副作用をもたらします。実は実験段階から5-FUとの相互作用が予測されており、臨床試験の段階でも死者を出していたことがわかっています。

4.キノホルム
  • キノホルムは胃腸薬として発売されましたが、亜急性脊髄視神経障害(スモン)を引き起こしました。スモンは両下肢末端の激しい異常知覚と痛み、視神経障害、腹痛、下痢などの症状を特徴とします。
  • 販売停止の35年も前に、スモンと思われる神経症状が報告されていたにもかかわらず、製薬会社は「副作用の少ない薬」として販売し続け、1万人以上のスモン患者を生んだとされています。
  • この薬害をきっかけとして、「医薬品副作用被害救済制度」が発足されました。(関連問題:第98回問76)

5.ゲフィチニブ
  • ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)は、癌細胞の増殖に関与する上皮成長因子受容体 (EGFR) のチロシンキナーゼを選択的に阻害することで、癌細胞の増殖を抑制するとされており、EGFR陽性の再発非小細胞肺癌に適応があります。
  • この薬は、申請から5カ月(通常は1年程度)という異例の早さで承認され、治験段階で間質性肺炎による死亡例があったにもかかわらず、添付文書には「重大な副作用」の欄に記載されるのみで、「副作用の少ない抗がん剤」という宣伝の下、販売されました。そして、間質性肺炎などの重篤な副作用によって、800人以上の方がなくなる悲劇を生みました。
  • その後、緊急安全性情報(イエローレター)が出され、添付文書の警告欄に「患者に有効性・安全性、息切れ等の副作用の初期症状、非小細胞肺癌の治療法、致命的となる症例があること等について十分に説明し、同意を得た上で投与すること」、「胸部X線検査等を行うなど観察を十分に行うこと」、「少なくとも投与開始後4週間は入院またはそれに準ずる管理の下で、間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うこと」等が記載され、現在も販売されています。(関連問題:第105回問218~219)

 

 以上より、正しい選択肢は1です。

 

最後に

国試問題に関連して5つの薬害について取り上げましたが、いずれも製薬会社や行政の利益優先の姿勢や怠慢が被害を拡大させた要因であることがわかります。また医療従事者がもっと早く副作用に気づき、被害を食い止める努力をしていれば、被害を少なくできたかもしれません。

薬剤師は、薬の副作用にいち早く気づき、薬害を防がなければならない立場にあります。そのためにも、薬学生の皆さんは、薬の知識、過去の薬害について学ぶとともに、最新の情報を手に入れることを意識し、立派な薬剤師を目指して下さい。

他にも薬害に関連する記事が複数ありますので、こちらも併せて御覧ください。

 

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参考文献