薬害防止・平和と人権

1. 薬害とは

 医薬品による好ましくない作用・影響を一般的に副作用と言われています。薬害は副作用と違って、被害の規模が極めて大きく、薬を製造、販売、承認する過程で有害性に関する情報が軽視、隠蔽、歪曲されたため発生した受認しがたい有害事象です。多くが裁判となっており、本来は避けられた「人災」であるといえます。私たち保険薬局は患者さんにお薬を渡し、服薬指導をしています。しかしそれだけで患者さんの安全性を確保することができるとはいえません。安全性の確保のため、私たちは、薬の服用状況とともに副作用が発生していないか観察する副作用モニターの活動を続けており、薬剤の安全性・有効性などを正確に評価できるようなシステムづくりと目を養っていくことが重要だと考えています。誰でも薬が買える時代である今、薬の安全性が守られるような社会を創っていくために、薬害被害者の裁判支援、学習会、宣伝行動を取り組んでいます。

サリドマイド

 鎮静・催眠剤サリドマイド(日本では胃腸薬にも配合)を妊娠中に服用した母親から手足や耳に奇形を持った子どもが産まれました。被害児は世界で数千人、日本で約千人(認定309人)に上ります。レンツ博士(ドイツ)の警告にもかかわらず、日本では警告後9カ月間も販売を継続、そのため被害が拡大しました。

スモン

 60年代から下肢の麻痺や視力障害などの末しょう神経障害(64年にスモンと命名)が多発しました。70年に殺菌剤キノホルムが原因と判明されるまでは、ウイルスによる伝染病と疑われ多数の自殺者も出ました。被害者は約1万2000人にものぼり、1935年に副作用の警告があったにもかかわらず、整腸剤として大量に販売されました。

薬害エイズ

 HIV(エイズウイルス)に汚染された血液凝固因子製剤により血友病患者等約1800人がHIVに感染しました。また生存被害者も重複感染したC型肝炎を抱え厳しい闘病を余儀なくされました。アメリカでは安全な加熱製剤が83年に実用化されましたが、日本では85年まで危険な非加熱製剤が使用され、当時安全な国内血しょうの利用や加熱製剤の早期導入を行わず被害を放置しました。

薬害ヤコブ病

 脳外科手術で使用したドイツ製のヒト乾燥硬膜がプリオンで汚染されていたために、100名以上がクロイツフェルト・ヤコブ病を発症し植物状態の後に多数が亡くなられました。米国では87年にこの製品の輸入を禁止したのに対し、日本での使用禁止は10年遅れの97年でした。

薬害肝炎

 出産や手術の際の出血、新生児出血症などの病気になどでHCV(C型肝炎ウイルス)に汚染された血液凝固因子製剤を投与されたことで、多数の人(少なくとも1万人以上)がHCVに感染しました。被害者・遺族が2002年以降、全国5地裁で提訴し、判決を経て、2008年に国・製薬企業と基本合意しました。

3. 現在、私たちは主に薬害イレッサ訴訟の全面解決に向けて取り組んでいます。

イレッサとは?

 イレッサはイギリスの製薬会社が販売した非小細胞肺がんの抗がん剤で、世界に先駆けて日本で承認されました。従来の抗がん剤とは異なり、点滴ではなく飲み薬であるので家庭でも治療できる、またがん細胞のみに攻撃し進行を抑え、健康な細胞を壊さない、そして延命効果がとても期待できるとしてメディアでも大きく取り上げられました。
 抗がん剤イレッサは副作用の少ない「夢の新薬」として大々的に広告宣伝される一方で、開発段階で判明していた重篤な副作用である急性肺障害・間質性肺炎の発症について、十分な警告などの安全確保措置は取られていませんでした。間質性肺炎は普通の肺炎とは違い、発症すると呼吸困難による強い苦痛が襲い死亡することもある危険な病気です。その結果、僅か半年足らずの間に180人、2年半で557人もの患者が命を落とし、副作用被害があとを絶ちませんでした。副作用の強い抗がん剤といえども、これほどの被害を出した薬はありません。

この裁判で問われていること

 "服用することを決めたのは患者だから私たちに責任はない、現に良い効果が現れている患者もいる"と製薬会社と国は裁判で主張しています。また、臨床現場で医薬品がより有効に使われるためには、800人の命の犠牲が出ても仕方がないともとれる答弁を繰り返していました。原告側は販売の中止を求めているのではなく、安全で有効な薬物療法が実施されるためのさらなる環境整備を求め、企業の利潤追求の姿勢、国の薬事行政の在り方を問い直そうとしているのです。そして薬害が繰り返されないためにもこの裁判で企業や国の責任を明らかにすること、がん患者の命の尊重を目指し裁判で闘っているのです。

この間の取り組み

 2011年1月7日、大阪地方裁判所と東京地方裁判所は薬害イレッサ訴訟について所見を伴う和解勧告を行いました。私たち京都シグマプランも加盟する「全日本民主医療機関連合会」が裁判所の和解勧告について声明を発表しましたので、下記に掲載しました。ご覧ください。
 また、薬害イレッサ訴訟全面解決を求め、アストラゼネカ社、国に対する申入書提出行動と2.8集会がありました。
 昨年の夏に西日本訴訟、東日本訴訟がともに結審を終え、本年2011年に判決が言い渡されます。判決期日までアストラゼネカ社、行政に対し全面解決の要求を働きかけていきます。

<判決>
西日本訴訟 2011年2月25日(大阪地裁)
東日本訴訟 2011年3月23日(東京地裁) 
・「薬害イレッサ訴訟に関する大阪・東京地方裁判所の和解勧告について
  ~アストラゼネカ社と国は裁判所の勧告を真摯に受け入れることを要望する~」(PDF)
  全日本民主医療機関連合会会長 藤末 衛(2011年1月14日)
・申入書提出行動/2.8集会のビラ


4. 薬害に関した機関紙を発行しています。是非ご覧ください。


KYT創刊号2006.8.1.pdf 
KYT第2号2006.11.1.pdf
KYT第3号2007.3.1.pdf
KYT第4号2007.6.20.pdf
KYT第5号2007.12.25.pdf
KYT第6号2008.4.1.pdf
KYT第7号2008.9.1.pdf

KYT第8号2009.7.1.pdf

KYT第9号2009.11.15.pdf

KYT増刊号 2011.2.1.pdf    KYT増刊号付録①.pdf     KYT増刊号付録②.pdf

KYT第10号2011.2.1.pdf

KYT第11号2011.4.20.pdf

KYT12号.pdf